2012年4月1日日曜日

「100万回生きたねこ」



「100万回生きたねこ」
2012
おいらは100万回も生きて
100万回も死んだトラ猫さ
必ず誰かに可愛がられ生きて
必ず惜しまれながら死んでゆく

王様と戦争に行って矢に当って
死んだときも王様は悲しんだのさ
でも戦争なんかきらいだったんだ
そもそも王様なんて大嫌いだったんだ

船乗りに連れられて大航海で
海に落ちた時に思ったもんだ
泳げないから海は嫌いだったんだ
そもそも船乗りなんて大嫌いだったんだ

サーカスの手品使いの話はどうだ
ドロボー稼業のご主人にも仕えたぞ
でもサーカスもドロボーも嫌いだったんだ
例え泣いてくれたって大嫌いだったんだ

おばあさんとの生活はつまらないし
女の子相手は罠に巻き込まれる
結局おばあさんも子供も厄介 なんだ
例え泣いてくれたって大嫌いだったんだ

おいらは100万回も生きて
100万回も死んだトラ猫さ
誰かが涙を流してくれても
死ぬことなんか怖くはなかった


「ある時俺は誰のものでもなかった
やるべき事は自由に決められた
命知らずの俺の生き様に誰もが賞賛の拍手をくれた
それからというものやたらと声をかけられるようになった
やれ、結婚してくれだ、一緒になってくれだ、婿に入らないかとか……
おれは 100万回も しんだんだぜ。いまさら おっかしくて!
とにかく一番自分が好きなんだな、俺って自分が大好きなんだ

おや、あの娘は何で振り向かないんだ?」


「どうだい、たいした猫だろう、俺は100万回も死んだんだぜ!」
「そう」
「俺は100万回も死んだんだぜ!」
「そう」
「君なんかまだ1回も生き終わってないだろ、」
「そう」

おいらは100万回も生きて
100万回も死んだトラ猫さ
だけど白く美しいあの娘は
驚ろかないし関心も示さない

「戦争にも行ったし大航海もしたんだぜ!」
「そう」
「そうそう、サーカスにもいたから、こんな3回転もお手の物だぜ……どうだい」
「そう」

俺は100万回も……
「俺は100万回も……」

「そばにいていいかい」
「ええ」


ずっと探し求めていた
居心地の良い場所がここだった
もうどこへも行かないと決めた
絶対に離れたくなんかない

愛される事に得意になって
愛する事が出来なかった

100万回死んでも
分からなかった事が今分かった
お前と子供達がかけがえのない宝だ

時が流れていっても
居心地の良い場所はそこだった
子供も立派に育って行った
君も今は可愛いおばあさん

一緒に小さな野の花を愛でて
遷りゆく夕焼けの下で時を過ごして

澄み切った青空や
しっとりした雨の日の雫も慈しみ
木枯らしの日は特に二人で寄り添って

「いつまでも一緒にいるんだぞ」
「ええ」


おいらは生まれて初めて泣いた
彼女が動かなくなったから泣いた
どうしても彼女は動かなかった
いつまでたっても動かなかった

おいらは100万回も泣いて
朝も昼も泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて
そしてある日の午後に泣き止んだけれど
そのまま彼女の側で動かなくなっていた

おいらは生まれ変わることはなかった
もうその必要はなかったから……
自作詞による作品は、昨年の「SOVIEL」以来となります。
まあ自作詞と言っても、原作ありきですが……。元々は1977年に出版された佐野洋子作の絵本であります。
知らなかったんですが、沢田研二主演でミュージカルにもなったみたいですね。
原作を越える事は不可能だと思うんですが、原作にたどり着く道標になればと思います。
これは 星空文庫TOKYO EARLY 3 YEARS −1982年− を参照いただければと思います。まあ、かいつまんで言うとアマチュアロックバンドの名前です。

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